天野 俊康医師LOH症候群(男性更年期障害)の治療の原則は、男性ホルモン(テストステロン)補充療法です。私たちはこれまで、OTC薬(処方箋不要の一般医薬品)である男性ホルモン軟膏(グローミン/大東製薬)を1日2回塗り込むことでテストステロンを補充する治療法の有効性・安全性について報告してきました。今回は特に、生理的に一日のなかでテストステロン値が変動する「日内変動」に着目し、短時間作用型のグローミンは日内変動に合わせた治療が可能であると考えられることから、1日1回の塗布によるLOH症候群治療に対する効果を検討し、結果を第23回日本性機能学会学術総会で報告しました。

テストステロンの日内変動

まず、日内変動についてですが、テストステロンは早朝高く、その後午後にかけて徐々に低くなっていくことがわかっています。さらに注目すべき点として、若い人に比較してと高齢の人では日内変動の幅が減ってくることが明らかになっています。私はLOH症候群の治療において、日内変動のメリハリがなくなるという点も、考慮すべき大事なことではないかと以前から考えておりました。

日内変動に合わせ1日1回塗布で検討

テストステロン軟膏のグローミンは皮膚に塗布すると数時間で数値が上がり、その後低下してきます。通常は1日2回使うのですが、日内変動に則して、午前中に高値になるようにと考え、今回の試験に取り組みました。これには当院(長野赤十字病院)と国際医療福祉大学病院リプロダクションセンターさん、三樹会病院泌尿器科さんと共同で取組み、40歳以上の患者さんでAMSスコア(加齢男性症状調査での得点。高ければ高いほどLOH症候群の可能性があり、泌尿器科等の受診が望ましいとされる)が27点を超える方を対象とし、PSA値(前立腺特異抗原の血中量)が2.0ng/dl以上の人、前立腺がんの患者さん、肝機能障害の方は除外しました。グローミンの塗布回数ですが、以前昔からある厚生省の許可基準が1日2回ですので、日内変動に合わせて、十分なインフォームドコンセントのもとに、朝1回の塗布で検討いたしました。

副作用なくAMSスコアが有意に低下

今回は自覚症状、AMSスコアの変化を中心に4週間後、12週間後、24週間後の値を検討しました。まだ予備的な検討なので17名ぐらいですが、年齢は44歳から63歳。AMSのスコアは52.4から、治療4週間後には39.9 → 12週間後では37.2 → 24週間後では34.5と、時間の経過とともに有意にAMSスコアが下がっていました。さらに、心理面、身体面、性関連など、いずれの点においてもAMSスコアは有意に低下がみられました。残念ながら1名の方のみ、効き目が実感できないとして中止しました。身体症状や採血結果からは、明らかな副作用は認められませんでした。

LOH症候群治療における優良で安全な一法

以上のように、血中テストステロン値は早朝高く、その後低下していくという傾向を考慮し、1日1回だけ塗布してみた結果としましては、まだ少数例ではあるもののAMSスコアの解析から見れば、優良な方法であり、かつ安全な方法だと言えるでしょう。まだ予備的検討ではありますが、OTC(処方箋のいらない一般医薬品)ですと比較的高額に感じられる方もいらっしゃるので、1日1回にすれば単純に半額の値段で済み、経済的にもメリットがあるかと思います。また、安全性にも問題なく、使いやすいということであればより有効です。これを今後も継続して検討し、現代のLOH症候群治療の一法としてご報告できたらと考えています。

天野 俊康医師

この記事の執筆者 天野 俊康

所属
長野赤十字病院
肩書
泌尿器科部長