「使えないなぁ!」
妻のその一言が、今も耳に焼き付いている。
あの夜以来、僕の身体は完全に言うことを聞かなくなった。まるで心と身体の間に厚い壁ができてしまったみたいに。
僕たち夫婦の結婚は遅かった。妻は今年40歳。
出産のタイムリミットが刻一刻と迫っている現実を、二人とも痛いほど分かっている。
「今月こそは」「次こそは」
カレンダーに印をつけるたび、妻の目に宿る期待と焦り。
排卵日とその前後になると、
(またダメかもしれない...いや、今回こそは...でも、もし今回も失敗したら...)
寝室に向かう足取りが重くなる。
妻の視線が刺さる。無言のプレッシャーが部屋中に充満する。
義務感。責任感。そして、男としての自信の崩壊。
「あなた、今日だからね」
妻の声は優しいようで、どこか事務的だ。
彼女だって追い詰められているのは分かる。年齢という容赦ない現実と戦っている。でも—
(頼むから、そんな目で見ないでくれ...)
「ごめん...」
何度謝っただろう。妻は何も言わずに背中を向ける。
その肩が小刻みに震えているのが見えた。
さすがに嫁からも怒られ、もう逃げられないと観念した。
専門クリニックの扉を開くのに、どれだけ勇気が必要だったか。
「心因性EDですね」
医師の診断は、予想していたものだった。
「子作りのプレッシャーが原因の患者さんは少なくありません。真面目で責任感の強い方ほど、このような症状に陥りやすいんです」
医師は続けた。
「奥様との関係性も重要です。『できて当たり前』という空気が、男性の性機能を著しく低下させることがあります」
処方されたED治療薬を手に、僕は複雑な思いを抱えて帰路についた。薬で解決することへの安堵と、薬に頼らなければならない情けなさ。
その夜、妻に打ち明けた。
「実は...病院に行ってきたんだ」
妻の表情が曇る。でも、診断内容を伝えると、彼女の目に涙が浮かんだ。
「ごめんなさい...私、あなたを追い詰めてた...」
(お互い、追い詰められてたんだ)
今では薬のおかげで、排卵日でもいつでも「頑張れる」状態になった。
でも、それ以上に大切なのは、妻との関係が少し変わったこと。
「無理しないでね」「ありがとう」
そんな言葉を交わせるようになった。
今回の件で、僕は痛感した。
男は、実はとても繊細な生き物なんだと。
プレッシャーに弱く、言葉に傷つき、期待に押しつぶされる。
それを表に出さないように必死に隠しているだけで。
女性の皆さん、旦那さんにはできるだけ優しくしてあげてください。
そして男性諸君、一人で抱え込まないで。
医師に相談することは、恥ずかしいことじゃない。
※あくまでも個人の感想であり、効果には個人差があります。



