永井 敦医師昨年、岡山県倉敷市で開かれた性機能学会学術総会。この回の学術総会会長を務め、日本性機能学会理事、性機能学会西部支部の支部長でもある永井敦教授が、当サイトのインタビューに答えてくださいました。

昨年の総会のテーマは「ラブサイエンス~男女の幸福な性を求めて~」とのことですが、このテーマが選ばれたことについては、どのような理由があるのでしょうか?

「ラブ・サイエンス」というのは造語なのです。一昨年開催された抗加齢医学会で、性をテーマに数人の研究者と論文を執筆したのですが、論文のテーマを「ラブサイエンス」としました。その時に、これは良い言葉だなと思って、今回のテーマにしようと思ったというのがひとつです。また、「サイエンス」ですから、性を「科学する」ことになるので、そういう観点からもこの言葉を選びました。性機能学というと、どうしても勃起障害とか、そういったところに絞られてくる部分はあるのですが、もっと幅広く研究したいという思いからも、このテーマにしました。

「男女の幸福な性」を考える上で、EDあるいはED治療は関係が深いと考えられますでしょうか?

非常に深い関係があると思います。男性が勃起障害(ED)になると、それは女性にとっての性機能障害の一因になるのです。パートナーである女性側は、挿入という意味では満足できません。男性のEDは、女性の性機能障害の大きなリスクファクターです。それを解決するというのは非常に重要なことで、EDを治療するということはすなわち、カップルの性の楽しみを深くし、カップルのより良い満足のいく関係を回復させることができます。当然、ED治療は「より良い性」を考えるうえで絶対的に必要なことです。

現在までの日本のED治療について、どのような印象をお持ちでしょうか?

永井先生日本では99年3月にバイアグラが出まして、これはすごくエポックメイキングなことでした。ただ、現在までそれに頼りすぎた部分があって、それ以来EDの研究が少しおろそかになった部分がありました。今まで一生懸命に研究して頑張ってはいましたが、なかなかいい治療法が見つからなかったところに、ポンッとバイアグラが出てきて、約70%のEDの患者さんの症状が良くなりました。それに満足して次の手段がなかなか出てこないという時期があり、そこが少しさびしいという印象です。

今後は、バイアグラ・レビトラ・シアリス、この3種の薬における無効や禁忌の例、こういったケースをどうするかが課題だと思います。実はこの問題に対しては、我々も色々と活動しているところなのです。そのひとつが、ブロスタグランジンE1という注射剤です。これを海綿体に注射すると勃起が起きる。これは我々が10年間活動して、ようやく認められるようになってきたものです。外国では自己注射も認められているのですから、日本もED治療先進国の仲間入りをすべきでしょう。そうあるべきだと思っています。

現在のED治療が置かれている現状については、どのように感じておられますか?

先ほども述べましたように、PDE5阻害薬後が、日本では進展していないという現状があります。プロスタグランジンE1は、海外では認められていても、日本では認められていない。こういった承認に時間がかかるのは、日本特有のものがあると思います。それでも厚生労働省には、もっとEDの治療に前向きになってもらいたいですし、学会レベルでさらに活発に新しい治療承認に向けての活動が必要なのだろうと思います。

EDの治療薬や治療技術の研究ついて、今後はどのような発展や進歩が考えられるのでしょうか?

どうしても基礎研究が手薄になりがちですが、基礎的研究をしっかりやることが大事だと考えています。それによって新しい治療法が開発されていく土壌づくりになると思います。今回、学術総会賞も新設して、若手研究者への意欲向上も目指しています。治療はもちろん、遺伝子治療も含めて先進的治療の開発が望まれますが、これからはEDの予防という観点からの研究も重要です。

現役医師として、来院される患者さんの中で特に目立つ傾向やお気づきの点などはございますか?

最近はLOH症候群(男性更年期障害)に伴うEDが増えてきていると感じますね。高齢者はもちろん、若年者のEDが増えているように思います。これについては、”草食系男子”とかいう言葉がありますが、この言葉に代表されるような最近の傾向でしょうか、若年者の性への無関心、また、その若年者の心因性のEDが増えているように感じます。

現在、EDにお悩みの男性に向けて、何かアドバイスがございましたら、お願いします。

EDは全身疾患の予測因子にもなりえます。たかがEDと考えてはいけません。古い言い方ですが、性機能は健康のバロメーターです。また、EDを克服することは、人間性を回復することであり、カップルの幸せな関係を維持するために重要です。

永井 敦医師

この記事の執筆者 永井 敦